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【医師解説】認知症になりやすい人って?

みなさんこんばんは。鈴木 慶です。
前回は頭痛に続いて、認知症の概要についてお話をいたしましたが、実は認知症はですね、運動習慣と非常に密接な関係があります。 今日はそのお話をしたいと思います。

認知症というのは色んな原因で起きますが、実は80歳以上の方の半数以上が認知症じゃないか、というデータもあるぐらい極めて多い病気です。
このことは前回申し上げましたが、認知症は脳の細胞の代謝が衰えてきて、老廃物が溜まることによって細胞が死んでいくことで、徐々に進行すると言われています。

単なる物忘れは認知症じゃないんですが、年とともに判断力やありえないほどの記憶力の低下、そしてその間違えた記憶や判断に基づいた異常な行動などを取るのが、認知症の困ったところであるんですが、どのようにしたら認知症を予防できるのかということが、世の中の皆さんの大きな話題になっています。

もちろん年齢に伴って多くの方が認知症の状態になっていくわけですから、私も含めて長生きをすれば、残念ながらみんな認知症になっていく可能性があるんですけれども、同じ “なる” であっても “なりづらい人” と “なりやすい人” と色々おいでになります。

1番は遺伝子の強さであります。2番目は生活習慣。実は認知症を起こす物質が決まってまして、この物質が増えてくる1つの原因が生活習慣病です。

βアミロイドという物質があります。このβアミロイドという物質が脳の中に増えてくると、脳細胞はそれを処理できなくなり、細胞ごとβアミロイドを抱えて爆死します。
このようにして、毒物を自ら自殺することで消去するという健気な行動の連鎖によって、最終的に脳細胞の数が減るわけです。

このβアミロイドが増える大きな原因が糖尿病です。
実は糖尿病の時は、インスリンというホルモンが効きにくくなり、血糖値が下がらなくなる訳ですが、身体は高い血糖値が身体に対して害をなすので、さらにインスリンを動員して大量のインスリンで血糖値を下げようとします。

ところがですね、このインスリンは、脳血液関門という、血管と脳の間の非常に厳しい城壁と言いますか、バリアを超えて容易に脳の中に入ることができます。ほとんどの物質はこのバリアを超えることができないので、例えばアミノ酸なんていうものも、脳に行くことができないんです。
ところがインスリンという大きなホルモンは容易に脳に入り込みます。
この脳に入ったインスリンも、結果的に酵素の力で分解されるんですが、このインスリンを分解する酵素は、βアミロイドを分解する酵素と一緒なんです。

こういったことで、高インスリン血症、血の中に大量に溜まったインスリンが脳に移行して、脳の中で分解された結果、βアミロイドを分解するパワーがなくなり、βアミロイドが溜まって脳細胞が死んでいくと。これが糖尿病が認知症を起こす大きな理由とされています。

さて、このことからある程度わかるかもしれませんが、糖尿病を起こしやすい体質の方というのは、当然認知症になりやすいわけです。現に糖尿病の認知症発病率は、何でもない糖尿病でない方に比べて、3倍以上と高くなります。

ではどのぐらい運動すれば認知症が予防できるのかと、もちろんその前提として糖尿病が起きないという大きな前提がありますが、実はですね、運動習慣をすることによって糖尿病が起きづらくなるという面以外に、全く糖尿病が無い方の中でも、認知症に “なる人” と “ならない人” を区別する、大きなポイントがありまして、なんと糖尿病が無い方達のグループの中でも、1日5000歩歩く方と5000歩未満の方で認知症発症の大きな差があります。

ですから、毎日5000歩以上歩くという習慣が、極めて認知症の予防に有利であるということがわかっているわけです。
この詳細な理論についてはわかっていませんが、アメリカでこのような研究がなされ、結果的に疫学として統計上の問題で処理すると、5000歩という1つのラインが見えてきたということであります。
ですから皆さん、ぜひ、5000歩を超えるような運動習慣を身につけることが重要だとお考えください。

ちなみにですね、他にどんな要素があるかと言いますと、糖尿病はもちろん認知症の危険因子なんですが、“心房細動” という不整脈も認知症の危険因子です。

それから運動量の他にですね、趣味があるかないか、音楽を愛でるかどうか、例えば音楽を歌うでも聞くでも演奏するでもいいんですが、この音楽に触れているかいないかでも大きな差が出ます。
ここが、音楽療法という治療法がリハビリの中にある、1つの所以です。

それから趣味がある、お話をするお友達がいる、これも大きいです。
そして何らかの役割分担を持っている。
例えばお掃除をするとか、孫の面倒を見るとか、そして孫でもペットでもいいんですが、自分が面倒を見なきゃいけないような立場でいるかどうか、これも大きいです。

すなわちですね、人と接して笑ったりおしゃべりしたりして、1日5000歩以上歩いて、何らかの趣味を持って、犬を飼ったり孫をあやしたりして、楽しい人生を送るというようなことをすると、かなり認知症になりにくいと知られています。

実はですね、引きこもり、運動不足、その結果身体が弱っていく状態をかつて老衰と呼びました。
今はこの状態はフレイルと言います。
次回はフレイルについてちょっとお話したいと思います。
ご清聴ありがとうございました。